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第4回 意外に知らない私達の体-骨とアパタイト-

板谷清司(いたたにきよし)

上智大学理工学部教授 工学博士
専門はセラミック化学

テレビや新聞などで"アパタイト"という言葉を良く耳にしますが,最初にこの言葉の意味を教えて下さい。

アパタイトは鉱物の名前で,日本語では"燐灰石(りんかいせき)"と呼ばれています。日本語で聞くと少しイメージがわくかも知れませんが,アパタイトはカルシウムとリンを含む結晶です。純粋なアパタイトはカルシウムとリンの比が10対6ですが,実際の骨に含まれるアパタイトにはこれら以外にも様々な元素が含まれていて,この比から少しずれています。アパタイトは英語で"apatite"と書きますが,そもそもこの言葉はギリシャ語の"apatas"(惑わす)に由来した言葉です。この言葉には詐欺師やペテン師などのさんざんな意味も含まれています。昔の人がこのように呼ぶようになった訳は,アパタイトがリンやカルシウム以外にもいろいろな元素を取り込み,結晶の形や色が他の鉱石(例えば宝石)と区別しにくかったためと考えられます。

人間の骨はアパタイトでできていると聞きましたが,本当ですか?

人間の骨は約70%がアパタイトを主成分とするリン酸カルシウムでできていますが,アパタイトだけでなく残りの約30%はコラーゲンを主成分とする有機物でできています。骨はよく鉄筋コンクリートに例えられます。コラーゲンが鉄筋,アパタイトがコンクリートに相当しています。

では,私達の体はアパタイトとコラーゲンの"鉄筋コンクリート"で支えられているのですね?

その通りです。アパタイトやコラーゲン自身の強度はそれ程高いものではありませんが,これらが結びついて骨をつくると大腿骨では300 kg,腰椎では700 kgの重さに耐えることができます。骨の役割は体を支えるだけではありません。頭蓋骨は脳を,また肋骨は心臓や肺を守るなど,内臓を保護する役目も果たしています。また,骨はカルシウムを蓄える"銀行"の役目も果たしていて,体のカルシウムが不足すると骨から体内にカルシウムが流れ出る仕組みになっています。食べ物から摂取するカルシウムの量が不足すると,骨に貯えられていたカルシウムが血液中に出ていってしまい,それがすすむと骨がスカスカになってしまいます。毎日の食事,特にカルシウムの摂取量については十分に気をつけて下さいね。

ところで,私達の体の中には何本くらいの骨があるのですか?

骨の数は人によって多少違いますが,大人の体には平均して206本の骨があります。赤ちゃんの時には約350本もの骨がありますが,成長するにつれて骨同士がつながり成人した時には206本になります。

子供から大人になると骨も成長しますが,アパタイトのような無機物がなぜ成長するのですか?

骨は一度つくられると一生変化しないように思われがちですが,子供の背丈が伸びたり,折れた骨がつながったりするのは骨が新陳代謝を行っているからです。骨の新陳代謝を担っているのが"破骨細胞" と"骨芽細胞"という細胞です。破骨細胞は古くなった骨を酸や酵素で溶かし,血液とともに運んでいく働きを,また骨芽細胞はコラーゲンをつくり,そこに血液中から運ばれてきたカルシウムが付着して,新しい骨をつくる働きをそれぞれ担っています。このサイクルは毎日行われていて,2-3年かけて体中の骨がつくりかえられていきます。

骨が新陳代謝を繰り返しているお話をうかがってびっくりしています。でも,なぜ私達の体の中ではそのような新陳代謝が繰り返されているのですか?

骨が新陳代謝を繰り返す理由は2つあります。一つは人間が生きていくために必要な量のカルシウムを骨から溶かし出し,体のすみずみまで運ぶためです。もう一つは古くなり,もろくなった骨から再びしなやかで強い骨に変えるためです。私達の体は実によくできていますね。

私達の体の中では本当に不思議なことが起こっているのですね!これからは普段の食事の内容にもっと気をつけたいと思います。今日は大変興味深いお話をして頂きまして,ありがとうございました。

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