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情報通信を支えるアナログ/ディジタル(A/D)変換器  ― ナノワイヤCMOS集積回路の実現を目指す ―

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出典: ソフィアサイテック vol,22(2011年)

和保 孝夫(情報理工学科・教授)


情報通信とA/D変換器

 インターネットを使った情報検索やメールのやりとりなど、我々の日常生活で情報通信の果たす役割は年々高まっています。これらの情報のやりとりには電気や光の信号、電波などが利用され、情報がアナログ量で表現されます。一方、携帯電話やPCの心臓部に利用される論理回路やメモリなどの半導体部品では、情報が0/1のディジタル量で表現されています。そこで、このような端末間で情報通信を行うにはアナログ(A)とディジタル(D)の間でデータを変換する回路(A/D変換器)が必要不可欠で、その性能が通信システムやサービス品質と深く関わっています。

研究室のメインテーマ

 近年の半導体技術の進展により、情報機器のディジタル処理能力が飛躍的に向上した結果、通信に必要なA/D変換器にもそれに見合う高性能化が期待されています。性能評価項目は、消費電力、動作速度、変換精度など多岐にわたり、それぞれの用途に適した各種のA/D変換器が開発されてきました。今後もさらに高度化する性能要求に応えるべく、様々なA/D変換器に共通する基盤技術としての回路設計、デバイス/材料技術も含め、A/D変換器を体系的に研究し、革新的技術を提案していくことが研究室のメインテーマになっています。

国際交流による異種技術融合

 A/D変換器を含め、現在、広く用いられている半導体集積回路はシリコンからできています。我々の研究室でもシリコンCMOS*集積回路の設計と試作、性能評価を進めてきました。しかし、性能向上の原動力であった素子微細化が10数年後には限界に達すると考えられており、その限界を凌駕する新しい技術の開発に向けた取り組みが始まっています。中でもシリコンと他の半導体材料を組み合わせた異種技術融合は大きな可能性を秘めており、我々の研究室でもナノワイヤCMOS融合型集積回路を提案し、ドイツの大学と共同で研究を進めています。(* 現在、最もよく利用されている集積回路の形態:Complementary Metal-Oxide-Semiconductor Integrated Circuitの略称)  ナノワイヤとは、直径が髪の毛の1/1000ほどの細線です。我々が着目しているのはシリコンより電気特性が優れているInAsナノワイヤです。InAsとシリコンは結晶構造が異なるため、今まで、それらを組み合わせた集積回路を製作することができませんでした。しかし、ナノワイヤを用いれば、それをシリコン表面に配置した、全く新しい異種技術融合型集積回路が実現できると考えています。ナノワイヤを用いたトランジスタをドイツの研究グループが、それと組み合わせるCMOS集積回路を我々が、それぞれ担当し、年に数回の相互訪問と、短期研究滞在、学生交換などを通じて共同研究を進めてきました。昨年の秋には回路設計が完了し、現在はプロトタイプの集積回路を試作/評価中で、まさに「ただいま研究中」です。

ナノワイヤCMOS融合型A/D変換器の設計(左)と試作中の5mm角チップの顕微鏡写真(右)

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