低炭素電力システム工学
出典: ソフィアサイテック vol,22(2011年)
谷貝 剛(機能創造理工学科・准教授)
2010年4月に赴任しました、准教授の谷貝(やがい)です。
私の研究室には、まだ学生が配属されていませんが、2011年度より学部生を迎える予定で、研究室としての体制が整うことになります。
さて、私の研究テーマは、「低炭素」がキーワードになっています。CO2全排出量のうち、約3割を占める電力分野において、低炭素化を進めることで地球温暖化を食い止めようとする狙いがあります。それを実現する具体的なツールとして、私は「超電導」を積極的に活用しようと考えています。第一に、近年注目されている直流給電があります。IT機器を多数配置しているインターネットデータセンターは、ネットワーク上を行き交うデータサイズが飛躍的に増加している中、その消費電力は同サイズのビルの約10倍に達します。電源系統は、無停電電源装置が配置されていたり、IT機器内のデバイスは直流動作するため、交流ー直流(又はその逆)変換を多数繰り返しています。その変換部分毎に10%~15%程度の電力損失があるため、全体的に30%程度損をしていることになります。当然、直流給電に変えることで損失を減らすことができますが、超電導体は直流で損失が「ゼロ」になる物質ですので、冷却の効率を考慮しても、さらなる省電力化が期待できます。それだけでなく、超電導体を用いると、電力供給に太いケーブルが必要な銅などの常電導体よりも、ケーブル断面積が1/16程度になります。設置面積に制限がある都市部のデータセンターにおける超電導直流給電は、今後必要不可欠になると考えています。
すでに話題になっていると思いますが、電力の低炭素化には、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを導入することも必要です。しかし、停電しない高品質の電力供給のためには、自然任せで不安定な自然エネルギーの導入容量には制限があります。私の研究室では、電力の安定供給のための自然エネルギー・超電導電力配電網の概念設計研究も行っています。
次世代のエネルギー源として期待されている核融合発電も、主要な超電導応用活躍の場となっています。超高温・高密度プラズマの閉じ込めには、強力な磁場が必要になるため、超電導マグネットが絶対必要です。極低温のマグネット用の超電導導体(ケーブル)は、微量な熱でも超電導状態が壊れてしまうので、通電中の損失を極力抑え、かつ強力な電磁力に耐えるような強固な構造が求められます。高品質な超電導ケーブルの設計・制作のための材料の電気・機械特性の解析やケーブル構造解析も積極的に行っています。
このように超電導体の電力応用は、単純に「電気」だけでなく、システム制御・構造力学・統計数学・材料など、たくさんの知識を総合して課題に取り組まなければなりません。新しい「機能」を「創造」する楽しさを味わえる研究室にしたいと思っています。よろしくお願いいたします。