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ナノテクを駆使した物理現象探求とデバイスへの応用

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出典: ソフィアサイテック vol,22(2011年)

中岡俊裕(機能創造理工学科・准教授)


 はじめまして、今年度4月に理工学部機能創造理工学科に着任いたしました。前任は東京大学生産技術研究所で、量子効果を利用して1つの電子と1つの光子(光の粒)を制御し、デバイスへ応用する研究を行っておりました。今後、これらの技術を基盤に、低エネルギー消費であり、地球環境にも優しい、革新的なデバイスを作っていきたいと考えております。

1つの電子と1つの光子

 電流は単位時間当たりの多数の電子の流れを表したものです。例えば、通常ノートパソコンに流している電流量はおおよそ1Aですので、1秒間におおよそ1018個の電子が流れている事になります。また私達が目にする光も、光子と呼ばれる粒からできています。例えば、講義などで私もよく使用するレーザーポインタ(~1 mW)は1秒間あたり、おおよそ1015個の光子を放出しています。数が大きすぎてピンとこないかもしれません。1015個は1千兆個でして、大雑把な話をしますと、もし1千兆個の砂粒があったとするとおおよそ東京ドームぐらいの砂山になります。1018個ですとその1000倍です。このように電子や光子は、通常、膨大な数の集合体として我々の目に現れているのですが、近年、ナノテクノロジーによる微細加工技術の進歩に伴い、その電子や光子を一つずつ扱うことが可能になってきています。こういった技術を駆使する事で実現できる革新的な機能を持つデバイスの開拓や、それにつながる新しい物理現象の探求を行っています。

進行中のプロジェクト

 このような研究の一つとして、現在、半導体ナノ構造技術を基盤として、「単電荷」、「スピン」、「光子」といった次世代の情報の担い手となるであろう3つの物理量を融合する素子の開発に取り組んできます。独立行政法人科学技術振興機構(JST)のさきがけプロジェクト「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」領域に採択され、研究を進めています。この研究は、今後、革新的デバイスに求められると予想される3つの機能、①「新原理動作」、②「低消費電力」、③「高速信号伝送」を融合し、それぞれ単独ではできない新機能の実現を目指すものです。これら3つは、近年のIT社会の進展を支えているトランジスタをはじめとする素子微細化の限界と莫大な消費電力の増大を背景として、1つ1つが現在活発に研究されている分野です。本研究はそれら3つ、つまり、ナノ構造を用いることで1つの電子を扱い、スピンという量子力学的な自由度と、高速な信号伝送を可能とする光の技術を組み合わせ、光ゲート演算など新たな機能の実現を目指す、少し欲張りな研究です。これにより、半導体素子微細化に伴う諸問題を解決するきっかけが少しでも得られればと考え、このテーマに挑戦しています。

 今後は、理工学振興会の皆様をはじめ、様々な研究室や組織との交流を通して、より広範囲に活動を広げてゆきたいを考えています。何卒ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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