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理工学部・大学院理工学研究科からのお知らせ

理工学部情報理工学科の古屋晋一准教授が音楽家の卓越した運動機能と感覚機能の間の関連性を発見しました

音楽家同士の能力の個人差を生み出す要因の解明につながる知見も-ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)のサイエンティフィック・リポーツ誌に掲載

本研究の要点

‐音楽家と非音楽家の指先の感覚機能と運動機能を詳細に検査
‐指先の重さ知覚能力と動きの正確性との間の関係は、音楽家においてのみ存在
‐生得的な感覚能力の高い音楽家ほど、音楽訓練による運動機能の伸び代が大きい可能性を示唆

本研究について

上智大学理工学部情報理工学科および音楽医科学研究センター長の古屋晋一准教授と同大学大学院博士前期課程の細田百萌は、さまざまな生体機能検査とデータサイエンス技術を用いて、音楽家が高精度の演奏を行う背後にある高度な生体機能の同定に成功しました。この成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)より発刊される学術雑誌Scientific Reports (サイエンティフィック・リポーツ誌)に、2016年11月25日付(イギリス時間11月25日午前10時)に公開されます。

音楽家や外科医、工芸職人やアスリートといったエキスパートと呼ばれる人々は、繊細で高精度の“タッチ”に代表されるように、運動機能も感覚機能も、共に優れていることが知られています。しかし、繊細な感覚機能が高精度の動きの制御にどのような影響を及ぼすかといった、優れた運動機能と感覚機能の間の関連性については、長い間未解明でした。

そこで本研究では、ピアニストと音楽訓練歴の無い非音楽家の計40名を対象に、指先の様々な触覚(圧力や感受性など)や運動機能(力の大きさやタイミングの精度など)の詳細な検査を実施しました。特に、感覚や運動に関する機能のピアニスト同士の個人差についても調べるため、国際コンクールでの入賞歴のあるピアニストにも実験に参加してもらいました。得られた検査結果を元に、統計手法(ロジスティック回帰や重回帰など)を用いて、どの感覚機能がどの運動機能との間に関連があるかについて調べました。

その結果、指先の力やタイミングの正確性や、タッチの感受性は、ピアニストの方が非音楽家よりも優れていました。しかし、指先が重さや圧力を感じる能力は、両者の間では差が無く、練習時間や早期訓練の影響もありませんでした。さらに、指先の重さを感じる触覚能力と運動機能の間の関係は、ピアニストのみ見られ、非音楽家では見られませんでした。

これらの結果から、音楽家の卓越した運動機能と感覚機能は互いに関与しあっており、特に、“生まれ持っての指先の感覚機能が高い人ほど、音楽訓練によって、より高精度な運動機能を獲得できる”という「遺伝と環境の相互作用」の存在が示唆されました。また、1万時間の法則といって、エキスパートになるためには集中的かつ膨大なトレーニングが必要と古くから言われていますが、本研究に参加したピアニストは平均で計2万時間の練習を行っていたにも関わらず、練習量が超絶技巧を生み出す生体機能を育むことを支持する結果は得られませんでした。

本研究は、古屋センター長の推進する「超絶技巧プロジェクト」の一環として実施され、音楽家が高精度のパフォーマンスを行うためのトレーニング法や指導法の開発の基盤となるだけではなく、脳科学、スポーツ科学、教育工学、感性工学やVR開発など幅広い分野への波及効果が期待できます。

論文名および著者

雑誌名 : Scientific Reports (サイエンティフィック・リポーツ誌)
論文タイトル : Shared somatosensory and motor functions in musicians
オンライン版URL : www.nature.com/articles/srep37632  (イギリス時間午前10時に掲載)

 

なお、こちらのニュースはプレスリリースされ、本学公式HPにも掲載されています。