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理工ミニレクチャー

第5回
宇宙は電子レンジ?

伊藤直紀(いとうなおき)

上智大学理工学部教授 理学博士
専門は宇宙論、宇宙物理学。






:宇宙と電子レンジは全然関係ないように思うけど、何か関係があるの、伊藤博士。ぜひ聞いてみたいわ。
   
:それが大ありなんじゃ、智子さん。ところで、あなたは電子レンジを英語では何というか知ってるかな。
   
:“Electronic range”かしら。
   
:むむ、あなたは英語が良くできるようじゃな。しかし残念ながら、実はそうは言わんのじゃ。ふつうは、”microwave”と言うんじゃ。これは、”microwave oven”の略じゃな。
   
:マイクロウエーブて何なの。
   
:マイクロウエーブとは電波の一種で、波長の短いものなんじゃ。家庭用の電子レンジは、波長12.2 cm のマイクロウエーブを食品に照射して吸収させ、それによって食品を加熱しているんじゃ。
   
:電子レンジがマイクロウエーブを使っているのは良くわかったわ。でもそれが宇宙とどんな関係があるの、伊藤博士。
   
:宇宙は、実はそのマイクロウエーブで満たされているんじゃよ、智子さん。1964年にアメリカのベル電話会社研究所の研究員のペンジアスとウィルソンが、電波望遠鏡を用いて発見したんじゃ。このコラムの最初に出ているのが、ペンジアス(右)とウィルソン(左)が宇宙マイクロウエーブの発見に使った電波望遠鏡なんじゃ。彼らは波長7.35 cmのマイクロウエーブを使って宇宙を観測したんじゃ。
   
:それで、宇宙は電子レンジというわけね。宇宙にそんなものが満ちているなんて、ぜんぜん知らなかった。じゃ、宇宙マイクロウエーブはどうしてできたの、伊藤博士。
   
:“Good question!”じゃ、智子さん。宇宙マイクロウエーブは、宇宙がかつて焦熱地獄だったときの残り火なんじゃ。宇宙が膨張して宇宙の温度が下がり、むかしは目に見える光だったものが1100倍も波長が長くなって、マイクロウエーブになったというわけじゃ。われわれがいま観測している宇宙マイクロウエーブが放射されたとき、宇宙の大きさは今の宇宙の大きさの1100分の1だったんじゃ。だから、ペンジアスとウィルソンは、われわれの宇宙がかつて焦熱地獄だった証拠を見つけたというわけじゃ。この業績によって、彼らは1978年度のノーベル物理学賞を受賞した。しかし、宇宙がかつて焦熱地獄だったということは、すでに1940年代の後半にガモフたちが理論的に予言していたんじゃ。
   
:ペンジアスとウィルソンが宇宙マイクロウエーブを発見したことの重要性が良くわかったわ。でも、現在はそれから40年も経っているでしょう。現在、宇宙マイクロウエーブの研究はどうなっているの、伊藤博士。
   
:これも”good question”じゃ、智子さん。現在、宇宙マイクロウエーブを精密観測して、宇宙の姿を調べる研究が活発に行われているんじゃ。実はわれわれの上智大学のグループも、宇宙マイクロウエーブの研究に関して、世界の舞台で活躍しているんじゃよ。私は今年の4月に、ハーバード大学やプリンストン大学に招かれて講演を行ってきた。また9月にはカリフォルニア工科大学やスタンフォード大学で講演する招待を受けている。しかし、ここでわれわれの研究について話をはじめると、ミニレクチャーではなくて、ロングレクチャーになってしまうので、詳しくは、私が2000年に出版した、朝日選書643“宇宙の時、人間の時”を読んでもらうということではどうかな。
   
:わかりました、伊藤博士、早速読んでみます。それでは10月にカリフォルニアのお話をお聞きするのを楽しみにしているわ。お元気で行ってらっしゃい。



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