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第10回 クリーンな未来環境を担う電気化学

遠藤 明(えんどう あきら)

上智大学理工学部助教授 理学博士
専門は電気分析化学、錯体化学

 私の主たる専門は電気化学という分野です。電気化学というとまだ馴染みがない方も少なくないかもしれません。そこで今回は、電気化学とはどのようなことをする学問なのか、またそれが我々の生活にどのように関わっているのかをお話したいと思います。

最初に、電気化学とは「電気」の学問に属するのですか?それとも「化学」に属する学問ですか?

電気化学は「化学」に属する学問で、「電子やイオンが関与する化学反応あるいは化学的現象」を研究するものです。電子の移動(流れ)はすなわち電流ですから、そこからこのような研究の分野は「電気化学」と呼ばれています。電気化学は他の多くの化学の分野と密接な関わりがあるのでその応用範囲も広く、我々の未来を左右するエネルギーおよび環境に深く関わっています。

なかなかイメージがつかめないのですが、もっと具体的に説明していただけませんか?

そうですね、電気化学反応を説明するのに皆さんが一番わかりやすい例は水の電気分解ではないでしょうか。

水を電気分解すると陽極に酸素が、陰極に水素が発生するという、中学の教科書にも出てくることですか?

全くその通りです。陽極では水酸化物イオンが電子を奪われ酸素が生成し、陰極では水素イオンが電子を受け取り水素が発生するわけです。電極との間で電子の移動が起こっており、これがまさしく電気化学反応です。

それでは、電気化学が私たちの生活に関わっている身近な例としては、どのようなものがあるでしょうか?

それこそたくさんあるのですが、身近な例の一つとして電池があげられるでしょう。私たちが日常よく使っている携帯電話、パソコン、デジカメなどに様々な種類・大きさの電池が使われています。 電気はクリーンで質の高いエネルギーですが、それを貯蔵しておくのは困難です。しかし、電池は好きなときに自由に電気を取り出すことができます。

電池といえば最近話題になっている燃料電池も電気化学反応を利用しているのですか?

その通りです。先程水の電気分解の話をしましたが、今度はその逆反応で水素と酸素を反応させて電気を取り出すのが燃料電池です。

燃料電池はなぜ注目されているのですか?

それは、水素と酸素の反応なので生成物は水であり大気汚染物質を出さないことと、火力発電などと較べて電気への変換効率が非常に高いことです。このために、燃料電池はクリーンエネルギーシステムとして注目されています。ただし、その水素をどのようにして作るのかが課題となっています。水の電気分解で取り出しては元の木阿弥ですから。

それでは、水素以外のものは燃料として使用できないのですか?

いいえ。燃料電池は水素を用いなくても、エタノールや化石燃料などの液体や石炭ガスなどの気体まで種々のものが使用できますし、また、大きさも大型発電プラントから家庭用の燃料電池、自動車用や携帯用の小型のものまでいろいろあります。

電池といえば太陽電池もありますが?

そうですね、太陽電池も忘れてはなりません。これも光エネルギーを直接電気エネルギーに変換するクリーンなエネルギーシステムで、図書館の屋上や、イグナチオ教会の屋上にも設置されています。また、従来のタイプとは異なる、色素を用いた色素増感型太陽電池も盛んに研究が進められています。

光といえば酸化チタンを用いた光触媒が最近注目を浴びていますが、これは電気化学とは関係ないのですか?

いいえ、大いに関係があります。酸化チタンは光を照射することによって酸素と反応し強い酸化性物質を作り出し、表面の有機物や細菌を除去してしまうことから、いろいろな分野で用いられるようになってきました。酸化チタンが注目され始めたのは、本多健一先生と藤嶋昭先生が酸化チタンと白金電極の組み合わせで光を照射すると水が分解され水素と酸素を発生することを発見したことからです。

 電気化学が環境やエネルギーの分野と密接に関係していることがお解りいただけましたでしょうか? 電気化学は様々な手法でクリーンエネルギーを作り出しています。電気化学の研究の発展により、よりクリーンな未来環境・生活を築き上げていくことが期待されています。

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