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第6回 電車とハイブリッドカー、省エネの秘密

宮武 昌史(みやたけ まさふみ)

上智大学理工学部助教授 博士(工学)
専門は電気エネルギー応用。

最近、ハイブリッドカーを街で良く見かけるようになりました。また、電車の中で「この電車は従来の半分以下の電力で走っています」という表示を見かけます。乗り物もずいぶん省エネルギーが進んでいるようですね。省エネの秘訣は一体どこにあるのでしょうか?

秘訣はいくつかありますが、重要なものの一つは、回生ブレーキです。電車やハイブリッドカーには、動力源としてモーターが使われますが、これをブレーキの時に発電機として動作させるのです。加速の時に電気エネルギーはモーターで運動エネルギーに変わる訳ですが、ブレーキの時には運動エネルギーを吸収して電気エネルギーに戻すのです。従来、最終的に熱エネルギーとして大気中に捨てていた運動エネルギーを再利用でき、省エネになります。

モーターを発電機として動作させる…って、どういう原理なんですか?

モーターや発電機では、磁界によって2つの作用が起きています。一つは、回転することによって発生する電圧。これは、物理で Blv という公式で表せる通り、回転速度に比例した電圧が発生します。もう一つは、電流によって発生する力。これは、BIl という公式で表せる通り、電流に比例した力(正確にはトルク)が出ます。実は、モーターであろうと発電機であろうと、電圧を発生させるという発電機的な作用と、力を出すというモーター的な作用とが常に同時に起きているのです。

う~ん、電気っぽくなって急に話が難しくなりましたね。じゃぁ、モーターと発電機の違いって…?

難しすぎることは省いて説明しましょう。モーターは通常電源につなげられて動いています。回転しているモーターには電圧が発生していていますが、それよりも電源の電圧が高いと電流がモーターに流れ込み、車(電車)は加速します。逆に、電源の電圧の方が低いと、電流が流れ出し、発電機になることで車(電車)は減速します。要は、電源の電圧をコントロールしてやれば加速や減速は自由自在、という訳です。

変ねぇ。電車に供給されている電気の電圧は一定のはずだし、ハイブリッドカーのバッテリーも電圧は変わらないはずですよね。電圧を変えたりすることなんてできるんですか?

あなたからそんな鋭い質問がくるとは思いませんでしたね。実は、今なら簡単にできます。これには、パワーエレクトロニクスと言われる技術の発展が大きく寄与しています。非常に小さい損失で、電圧を自在に変えたり、直流から任意の電圧・周波数の交流を作ったりできるのです。これは、乗り物だけではなく、家電や自然エネルギー発電など、様々な分野で活躍しています。ただ、これについて説明を始めると長くなるので、別の機会にしましょう。

電気電子工学の発展で省エネがますます進んできているようで、地球の未来も大丈夫ですね。

いやいや、いくら省エネルギーな装置や仕組みができても、うまく使いこなさないと能力を発揮できません。例えば、ハイブリッドカーでブレーキをかけようとした時、その電気を蓄えるバッテリーが満杯だと、発電が無駄になります。電車でも発電した電気がうまく使われないことも良く起こります。運転方法やエネルギーのコントロールが重要です。我々の研究グループでは、最近それに関連した省エネルギー運転法の研究を始めています。 また、もっと根本的な問題としては、自動車単体で省エネが進んだとしても、世界的に自動車の台数はどんどん増えていますから、省エネが追いつかないことも起こりえます。

あらら。ことはそう簡単ではないのですね。

画期的技術ができると、ついつい安心しがちなのですが、実はそこからが大事なのだと私は思うのです。これは,省エネだけではなく、人生にも当てはまるのではないでしょうか。

そうですね。おっと、私もこんなところで油を売ってる場合じゃないわ。そろそろ帰りますね。どうもありがとうございました。

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