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第1回 生体時計って何?

千葉篤彦(ちばあつひこ)

上智大学理工学部助教授 理学博士
専門は時間生物学、神経行動学

私は毎朝目覚し時計がないと起きられないんですが、私たちの体の中 にも時計があるって本当ですか?

その通りです。確かに社会の一員として生活していくためには目覚し時計 が必要な時もありますが、私たちは体の中にも時計を持っていて1日の長さを測ることができます。人間だけではなく地球上のほとんど全ての生物は、この“生体時計”の働きによって24時間を周期として生活するようにできているのです。これは生物が24時間周期で昼夜が繰り返される地球上で長い時間をかけて進化することを通して獲得した機能であるといえますね。

その時計はどのくらい正確なんですか?

実は生体時計の周期は正確に24時間というわけではありません。23.5時間 であったり24.5時間であったりします。人間の場合は24時間より少し長いといわれてます。

そうすると私たちの体のリズムは毎日少しずつ時間が後ろにずれてい ってしまうんじゃないですか?

いいえ、そういうことがないように人間も他の生物も昼夜の光サイクルを 利用して毎日生体時計の時刻合わせをして誤差を補正しています。しかし私たち人間は、夜明けとともに起き、日暮れとともに寝るなどという優雅な生活はなかなかできませんから、太陽光だけでなくさまざまな社会的な制約によっても生体時計の時刻あわせをしているのです。

それで私たち人間は交代勤務などで昼夜の光サイクルを無視した生活 リズムにも適応できるわけですね。

実はそれが問題なんです。確かに交代勤務などの際は、私たちは昼夜のサイクルを無視して就寝時間をシフトさせます。そうすることで表面的には睡眠時間を確保することができます。しかし、体のリズムは睡眠覚醒リズムだけではありません。ホルモン分泌や体温、心拍数などあらゆる生理機能が1日周期のリズムを持っています。これらのリズムの中には社会的要因よりも太陽光によってもたらされる昼夜の光サイクルに同調しやすいものもあります。そのため無理な交代勤務を続けることによって睡眠覚醒リズムと他のリズムとの間で一時的に脱同調が生じる場合があります。このような脱同調は内的脱同調と呼ばれています。これによって、眠りが浅くなるなどの睡眠障害、胃腸障害、作業能率の低下などが起こります。海外旅行の際、現地の時間に無理に合わせることにより生じる時差ぼけでは、まさに体がこの状態にあるのです。

やはり人間はもともと昼起きて夜寝るようにできているんですね。

そうですね。このような生体リズムの乱れは精神面にも少なからず影響を 与えることになります。うつ病などの感情障害はしばしば生体リズムの異常を伴うことが知られ、逆に生体リズム障害の患者ではうつ病などの発症頻度が高いとの報告が数多くなされています。私たちは規則正しい生活を心がけることはもとより、感情障害の原因についてもさまざまな角度から理解を深めることが大切ですね。

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