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超伝導材料、新機能性材料を創る

足立 匡(機能創造理工学科・准教授)

2014年
出典: ソフィアサイテック vol,25

足立 匡(機能創造理工学科・准教授)


 物質の電気抵抗がゼロになる「超伝導」は、物性物理の研究分野で最も魅力ある現象の1 つです。例えば、2008 年に東京工業大学のグループで発見された鉄系超伝導体の論文は、その年に発表されたあらゆる自然科学の分野の論文の中で引用された回数が一番多かったそうで、鉄系超伝導体の研究が爆発的に広まったことを示しています。一方、超伝導は私たちの暮らしの中で使われ始めています。最も普及しているのは、医療用の磁気共鳴診断置(MRI)でしょう。また、2027 年度に開業予定のリニア新幹線も有名です。近い将来、送電ケーブルとしても使われるでしょう。

 しかし、これらの応用に使われている超伝導材料は金属間化合物や合金で、超伝導転移温度TC(この温度以下で超伝導になる)は、なんとマイナス250℃ !とても低い温度です。したがって、超伝導材料を使うためには、高価な液体ヘリウムや冷凍機を使わないといけません。一方、銅酸化物の高温超伝導体はTCが高く(それでもマイナス138℃ですが)、安価な液体窒素で冷やすだけで十分です。このように物質によって異なるTC は何によって決まるのでしょうか?

 TC が低い超伝導物質に関しては理論的に解明されていて、結晶格子の振動(フォノン)が2 つの電子を媒介して電子の対を形成し、超伝導が発現します。したがって、TC はフォノンのエネルギーによって大体決まります。ところが、高いTCを持つ銅酸化物や鉄系などの高温超伝導体についてはまだわかっていません。フォノンではなく、原子のスピン(小さな磁石のようなもの)間の相互作用が2 つの電子を媒介するという新しい提案もあります。このメカニズムが解明されれば、究極的には室温で発現する超伝導材料(冷やす必要なし!)が開発され、私たちの暮らしに大きな変革がもたらされるでしょう。

 私の研究室では、超伝導に代表される新しい機能を持つ材料の開発を目指して、酸化物や金属間化合物の試料の作製と物性の測定を行っています。特に、(i)銅酸化物、鉄系などの高いTCを持つ超伝導体のメカニズムの解明を目指した研究と、(ii)磁気的な相互作用などによる新しい量子現象を示す物質の開発に興味を持っています。私の研究室の特色は
 ・ 試料を自前で作製する(フローティングゾーン法による単結晶の育成など)。
 ・ 電気抵抗などの輸送特性、熱物性などの基礎特性を測定する。
 ・ 磁気的性質を調べるためにミュオンスピン緩和測定を行う。
があります。特に、ミュオンスピン緩和測定は大型の加速器を使うため、世界で4 ヶ所(茨城県東海村、イギリス、スイス、カナダ)でのみ行えるため、年に数回は外国で実施します。現地の美味しい食べ物と文化に触れ合うとともに、新しい実験結果を得てそれについて議論する、とても楽しく充実した時間を送ることができます。このような試料の作製と物性測定から、新しい機能が発現するメカニズムを解明することを目標に研究をしています。

 ところで、セレンディピティという言葉がありますが、新しい発見は狙ってできるものではなく、偶然の産物であることが多いのは、歴史が語っていることです。つまり、熟練した科学者よりも、学生さんや若手研究者の方が頭が柔らかいので、新しい発見をする可能性が高いかもしれません。学生さん! 自分の手で新材料を創り、それが示す新機能を夢見て一緒に研究しませんか?

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