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モータが回る理由と発電機の解析モデル

坂本 織江(機能創造理工学科・助教)

2013年
出典: ソフィアサイテック vol,24

坂本 織江(機能創造理工学科・助教)


 私たちが普段使っている電気は、使う瞬間に、発電所から電力系統を光の速さで伝わってきます。電力系統(電力システム)とは、発電所から電気を使う場所までの、電気エネルギーを利用するためのシステム全体のことです。1882 年にエジソンが世界初の電力系統の商用運転を始め、初日には6 台の発電機で400 個の白熱電球を灯しました。今では「地球上で最大の機械」とも言われる巨大なネットワークになっています。

 電力系統では、電気エネルギーを効率よく安定に利用するために、様々な制御技術が活用されています。風力発電などの再生可能エネルギーの導入量を増やしていくにも、制御技術の高性能化が欠かせません。この制御技術の開発は、制御の効果を計算やシミュレーションによって検証する解析技術に支えられています。

 私は電力系統の解析・制御技術の高性能化を目指し、電力系統機器の解析モデルや制御方法について研究しています。現在の主な研究テーマは発電機の解析モデルの開発です。

 水力や火力、原子力、風力などの発電所では、水や蒸気、風の力で発電機の中にある磁石を回転させることによって発電します。電力系統には「周波数」という量があり、東日本では50 ヘルツ、西日本では60 ヘルツになっています。大規模な火力発電所の発電機は全て、周波数と同じ速さ(50 ヘルツの場所なら1 秒間に50 回の速さ)で回転しています。他の発電機も、回る速さは構造によって違いますが、タイミングは必ず50 ヘルツにそろっています。タイミングがそろっていることで、発電所の水や蒸気・風の力が電気を介して工場のモータまで伝わり、モータが回って仕事をすることができます。ここで力を伝える主要な役割を担うのが、発電機の中の磁石から出る磁力線で、「ゴム紐」にたとえられます。ゴム紐は発電機からモータまでつながって力を伝えています。タイミングが合っていないと、ゴム紐がねじれたり切れたりして、力を伝えることができなくなってしまいます。

 このため、発電機の解析モデルでは、磁力線の様子をどのように模擬するかが重要となります。模擬の詳しさの程度も大切で、詳しすぎると計算が遅くなったり、計算に必要な発電機データの入手が困難になったりして、実用的ではありません。

 電力系統のシミュレーションでは近年、計算機能力の向上に伴って、過渡的な応動を数十~数百マイクロ秒(数十万分の1 秒~数万分の1 秒)程度の細かい時間刻みで解析する、瞬時値解析が広く用いられるようになってきています。この瞬時値解析において、同期発電機の回転力の計算手順と磁力線の模擬方法を工夫することによって、計算の安定性を高め、解析精度の向上と計算の高速化を可能とするモデルを開発しました。入手しやすい発電機データを用いる実用的なモデルとなっています。現在はこの手法の改良と、誘導モータへの応用について研究を進めています。

 当研究室は2013 年度に1 期目の学生を迎えます。電気を使う人と地球環境の両方にとってより良い電力系統を考えながら、研究に取り組んでいきたいと考えています。

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