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ミクロスケールの粒子を追う

渡邉 摩理子(機能創造理工学科・准教授)

2013年
出典: ソフィアサイテック vol,24

渡邉 摩理子(機能創造理工学科・准教授)


 本研究室では、エンジンなどの環境性能向上を背景として、液体燃料のスプレー燃焼やエンジンから排出される粒子状物質といったミクロスケールの粒子を含む流れについて研究を行っています。

スプレー燃焼技術の発展を目指して

 スプレー燃焼は、液体燃料をミクロンスケールの粒径を持つ無数の液滴に微粒化して燃焼させる方法です。ガスタービンエンジンなどの燃焼装置では熱効率を向上させるため、高圧下でスプレー燃焼させています。圧力の変化は、スプレー燃焼で同時に進行する液体燃料の微粒化、液滴の気相への分散、蒸発、燃料蒸気の酸化剤との混合、燃焼反応といった複数のプロセスに影響を及ぼし、さらに各プロセス同士がお互いに影響を及ぼし合うため、圧力変化に伴う火炎構造変化のメカニズムを系統的に示すのは容易ではありません。本研究室では圧力による各プロセスの変化を出来るだけ詳細に観察できるようシンプルなバーナーを採用し、レーザー計測を駆使した実験と直接数値解析(DNS)あるいはラージエディシミュレーション(LES)による熱流動シミュレーションを連携させながら、高圧下のスプレー燃焼メカニズムの解明に挑戦しています。これまで大気圧下で研究されることが多かったスプレー燃焼技術をさらに発展させるべく、これからも研究を進めていく所存です。

汚染物質を捉えるシミュレーション手法の開発

 燃焼によって排出されるすすと呼ばれる粒子状物質(PM: Particulate Matter)は、大気環境や人体へ悪影響を及ぼすことが懸念されており、その挙動解明が望まれています。しかしながら、実験的にすすを捕集して分析することは従来からよく行われていますが、すすの形成や流動、熱輸送などの挙動を計測することは難しく、数値シミュレーションが有効な手段と考えられます。
すすはサブミクロンスケールの一次粒子が鎖状に凝集した構造をしています。このような微小なスケールにある粒子の凝集、成長、流動を解析するためには、希薄気体効果や粒子間力・ブラウン力といった外力、粒子の非球形性及び表面状態に依存する粒子の結合のモデリングが課題となります。本研究室では、微小スケールで顕著になる様々な物理的要因をモデルとして組み込んだ、新しい粒子の流動シミュレーション手法の開発を進めています。また、モデルとして組み込んだこれらの要因をON/OFFし、その影響を調べることで、凝集体形成の支配的要因を調査しています。凝集体のサイズや形状を左右する支配的要因が明らかになり、凝集体の形成過程をコントロールすることが可能になれば、PM の抑制技術や捕集技術へ役立てることができます。また、すすの挙動に限らず、大気中のエアロゾル粒子の流動、アスベストのような有害な粉塵の飛散、バイオリアクターやケミカルリアクター内の流れ、生体内の流れ、さらに近年注目されている微粒子製造技術への応用など、微粒子やその集合体が関わるあらゆる現象に応用展開できるのではと考えています。

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