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マイクロからナノへ

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出典: ソフィアサイテック vol,23(2012年)

一柳 満久(機能創造理工学科・助教)


 マイクロ・ナノテクノロジーの学術的進展は著しく、近年ではこれら基盤技術の積み重ねが多くの工業分野における技術革新の一役を担っていることは周知のとおりです。特に、半導体製造技術に端を発したMEMSデバイスの開発は、電子工学分野のみならず、センサーを小型化したことで自動車分野や情報通信分野の進歩にもつながりました。さらに近年では、微細加工技術を応用して大型化学反応器や分析機器を小型化したLab-on-a-chipやMicro-TAS (Micro Total Analysis Systems) と称されるマイクロデバイスも代表的な工業的応用例として挙げられるようになりました。このようにマイクロ・ナノテクノロジーは電子工学分野、電気化学分野、生化学分野等の研究者の方々によって牽引されていることは揺るぎない事実ではありますが、実はデバイスの製作過程で生じる熱問題やデバイス内部の混合や化学反応における熱流動現象を解明することが、デバイス設計の観点から鑑みても重要な問題であるとの認識が高まってきております。そういった背景のもと、10年程前から熱流体分野に携わる多くの研究者が、マイクロスケールの熱流動現象を把握できる新たな計測法の展開を始めました。本稿では私が開発しているマイクロ・ナノスケールの熱流動計測法を簡単に紹介致します。

マイクロ流路内混合場および化学反応場の計測

 マイクロデバイスには幅数十  数百mの流路が多数配置され、流体の混合や化学反応といった操作が行われています。この種のデバイスにおける従来の混合の評価は、ペクレ数を用いて対流や拡散といった支配的要因を大まかに判断するのみでした。それに対し、空間的な混合輸送の評価 (物質輸送方程式の評価) が可能となれば、将来的に混合物質の局所拡散制御や反応の促進や抑制につながり、デバイスの性能向上や革新的な機能の付加に寄与致します。そこで私は、流体の速度 (マイクロPIV) およびイオン濃度 (レーザ誘起蛍光法: LIF) の同時計測法を開発しました。本手法により、従来では困難であった空間的な物質輸送を実験的に評価できるようになりました。

ナノスケール熱流動現象への展開

 マイクロ流路内の流れの大きな特徴は、表面積 / 体積比が大となることで、メートルオーダ以上での流体では埋もれがちな流路壁面の電気的力 (ゼータ電位に起因する力) が顕在化、気液・液液・固液界面反応の効率化、さらには単位面積当たりの伝熱量の増加といったことが挙げられます。これらに共通する点は、界面近傍マイクロからナノスケールのイオンや流体挙動が、その流れや反応制御効率、伝熱量を支配していることにあります。将来的にデバイスの性能向上や革新的な機能付加のためには、上記の界面現象を明らかにすることが必要不可欠ではありますが、その実験的研究はあまり進展しておりません。そのため、近年、私はマイクロ流路内の界面現象を実験的に明らかにすることを目的とし、エバネッセント波を利用した固液界面極近傍ナノスケール速度計測技術、気液二相流の非定常高速可視化技術、ならびに次世代半導体デバイスの除熱システムを開発しております。

最後に

 本稿では、私がこれまでに行っているマイクロPIVを用いた流動計測技術の開発に関して紹介させて頂きました。現在では計測システムおよび画像処理ソフトがパッケージ化され数社から市販されているため、その製品を購入すれば誰でも比較的簡便にマイクロ流路内の速度場を計測することが出来るようになりました。これは、多くの研究者が培った要素技術の蓄積の賜物であります。私もその一役を担うため、これからも「新たな物理量を計測したい」あるいは「更なる高精度計測を実現したい」という探究心に突き動かされて技術進展を続けていきたいと思っている所存です。

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